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別人制度レポート/彫金師・ジュエリーデザイナー

別人制度レポート/彫金師・ジュエリーデザイナー

みなさま、こんにちは、another life.を運営するドットライフの新條です。今回は、ドットライフで新しく始まった、1日だけ別の人生を味わうための体験休暇制度「別人制度」についてお届けします。

私が8月に体験したのは、「ジュエリーデザイナーの1日」。自分がまだ理解できない、何か新しいものについて向き合う時間を作ろうと、知り合い経由でご依頼しました。

私の一番の関心事項は、アートの世界におけるプロダクトアウトとマーケットインのバランスです。自分が伝えたいことありきで生み出すものなのか、世の中に欲されているものから作るのか。モノに溢れた社会で事業を行う私たちの参考になればと思い、アトリエの門を叩きました!

1. ジュエリーデザイナーの1日カバン持ち体験

当日かばん持ちをさせてもらったのは、ジュエリーデザイナー・作家の松田 瑛里子さん。知り合いの紹介でお会いして以来、イベントでお会いしたり、テルマー湯で飲み会をしたり、引っ越し祝いにガジュマルの木をいただいたり、色々と交流はあったものの、どんなお仕事をされているのか、具体的に伺うのは初めて。どんな1日になるのか緊張しながらのスタートです。

AM11:00:中野坂上のアトリエに集合

松田さんはご自身の作品の制作に加え、オーダーメイドのジュエリー制作、大学や専門学校での授業の3つが活動の柱となっています。今回は、午前中に制作の様子を拝見し、午後に松田さんの母校である東京藝大に作品を展示するための納品に同行することになりました。

2. かばん持ちのはずが…
アトリエについて挨拶を済ませ、1日の流れを聞いたあと、手に持たされたのはガスバーナー(!)てっきり前半は見学のみかと思っていましたが、何かを燃やす時が来たようです…。

「素人でもできるから」ということでお任せいただいたのは、とある催事で利用するネームプレートの素材加工。東急ハンズで売っている金色のステンレスを5cm前後にカットし、ガスバーナーで火を当て、金槌で形を変え、彫刻で名前を打つ、という工程のうち、私は火を当てて金槌を打つ部分をお手伝いさせてもらいました。

15秒ほど熱したら、

横の水につける。じゅっと音がします。

この繰り返しです。一見単純作業のように見えますが、加熱しすぎると色が変わってしまったり、変形してしまったり。何より、火を扱うので、集中が必要です。そんな作業を数十枚単位で繰り返していると、あることに気づきました。

「満遍なく色々火を当てるより、一箇所に集中して火を当てる方が、熱するのが早い!!」

居酒屋とかで鯖を炙ったり、肉寿司で表面炙ったりするノリで、炎が当たる面を動かしまくっていたのですが、一点にじっと当てるほうが早いんです。理由はシンプルで、「熱の伝導性」が高い素材だから。

これ、組織も同じなのかなと思いました。鯖や牛肉のように、一点を加熱してもそこだけ焦げ付くようなチームでは、全体の熱量が上がらない。一方で、熱伝導性の高い、一枚岩のチームが作れたら、誰かの熱狂がそのまま同じ温度でチームの熱狂に繋がる。まずは、組織の熱伝導率をあげるんや…Oo。( ´ ω ` ).+゚

そんな妄想をしながら金槌を叩きました。

なかなか味のある仕上がりです。

あとは、名前の刻印だけ、というところで午前のアトリエパートは終了。つづいて松田さんの母校である東京藝大に向かいます。

3. アート的発想をビジネスに取り入れる

AM13:30:東京藝術大学に到着

学内に新しくできる展示コーナーに向かいます。

現地では作家さんが作品と一覧表を展示側に渡します。一覧表の中に価格なども入れておくそうです。先ほどのアトリエが制作サイドだとすれば、こちらの展示会はビジネスサイド。マネージャーに一任する作家さんもいるようです。

その後、松田さんが以前在籍していた研究室などを見学させてもらいながら、アート談義をしばしば。一番聞きたかったことを尋ねてみました。以下、やりとり概要です。

Q:作家さんが物を作る動機は、伝えたいことありき?市場の要望ありき?
A:色々なパターンがある。相手に求められたものを作る人もいるし、自分が伝えたいことだけ作品にする人もいる。その中間もいる。例えば、著名な芸術家の草間彌生氏は、「自分のみている世界が本当に美しいから、みなさんにも共有する」というスタンス。

Q:松田さんは、発注者がいるオーダーメイドと、ご自身の作品の二つがあるが、どちらの動機に近い?
A:制作を通じて、一貫して伝えたいテーマがある。作りたいものは「人間に近いもの」で、表現したいのは生きることや死ぬこと。周りの作家からは、作品制作とオーダーメイドデザインの二つをしていることに驚かれることもある。

Q:革新的なサービスや商品は、相手が欲しているものありきでなく、実現したい未来やメッセージから作り上げる、ある種のアート要素もあるように考えているが、どう思うか?
A:色々なものが規則正しく動き、求めたものをちゃんと得られる時代だからこそ、「相手が欲しているもの以外を提供する」ような発想は大事だと思う。何が起きるかわからない、予測できない、そんな揺らぎがあるほうが人生は豊かになる。アートは、人にとってそういった存在であると思うし、ビジネスでもその要素が付加価値になることはあり得ると思う。

ここには書ききれませんが、話題は深く深く入り込み、気づけば山手線の降りる予定の駅を通過。。今まであまり使ったことのない脳の部分が刺激されるような時間でした。

4. 1日体験を終えて

環境が変わると、頭や身体、心の使い方が大きく変わるんだなと気づいた1日でした。自分にも一緒に働く人にも思考の癖や共通の前提がある。その前提が大きく異なる環境、特に芸術領域のように、ルールが異なる環境のプロフェッショナルのかばん持ちはとてもとても刺激的でした。

個人的には、特に、相手に求められていること「だけ」を満たさない、良い意味でユーザーの期待値とずれたサービス、ソリューションを提供していくことの可能性を再認識しました。

ご協力いただいた松田さん、アトリエのみなさん、本当にありがとうございました!